Vol.5
多様性を認め、他人を思いやることの大切さ
グレブさん親子
今回訪れたのはポーランド出身のグレブさん親子。
母国で10年、ドイツで20年過ごしたグレブさんは留学経験もある愛媛へ。今治市出身の奥様と結婚した後は弥江(やえ)ちゃんという子宝にも恵まれました。8年前から宇和島市で旅館業に就いていますが、弥江ちゃんが松山市の小学校に入学することになったので、グレブさんは単身赴任を選択し、週1回は互いの家を行き来しながら家族の絆を深めています。
- パパPROFILE
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- 40歳、旅館業
- 一人娘・弥江ちゃん(9歳)のパパ
(1) 子育てはポーランド流?
グレブさんから見て、日本の子育てはどうですか?
「日本の子育ては一生懸命というのは、テレビを通して世界中の人が言ってますね。遅い時間まで学校にいて、その後習い事や塾に行く。“カギっ子”と言われている日本の子どもたちは小さい時から自立しているというイメージがあります。ただ、塾で遅くまで勉強している子供たちは疲れてますよね。かわいそう。私が高校生の頃でも8時から13時くらいで学校が終わっていたんですよ。もちろん週休2日で、2カ月くらいある夏休みは宿題もないので、キャンプに行ったり、両親と海外旅行したり、自由な時間が多いです。そのぶん早い時期に人格形成ができますよね」
日本の子育てのいいところは?
「安全。やっぱりそれはすごく感じる。子育てだけじゃないですよね。娘のことはいつも心配、24時間心配ですよ。ただ、海外と違って、日本は夜に女性が一人歩きしても、海外に比べるとまだ安全だと思います」
グレブさんのメンタリティはドイツ、それともポーランド?
「10年前、同じ質問をされて、ポーランドの心、ドイツのパスポートの人と言いました。ポーランドの心がものすごく強い。でも、ずっと住んでいると国民性みたいなものが染みついてきて、ドイツに帰っている時もなんでサービス悪くてもチップをあげなくちゃいけないの? と思ったり。そこは日本的というか、ちょっとずつ変わってきてますね」
育て方もポーランド流ですか?
「娘の育て方はどうかな? ポーランドの文化を伝えることに力を入れたいですね。普段からポーランド語で話していますが、最近はドイツ語と英語も遊びながら勉強しているんですよ。実家はドイツにあるので、娘にも3つの国の文化を伝えたい、紹介したいですよね。あと、私は本音と建て前の使い分けが苦手で、いつも直球というか感情がストレートなのはドイツ的な性格かもしれません」
ママ「夫は正義感が激しく強いので、娘からは“抑えて抑えて世の中にはいろいろな人もいるはず!” と言われているんですよ」
「そう、最近は立場が逆(笑)。僕が運転する時は交通ルールに厳しいんですよね。なんで方向指示器出さない? なんで一時停止を守らない? と、車内で、けっこう怒ります、いらいらする。子どもは逆で、“お父さんいらいらしてはいけません、そういうこともあります”って。僕はその時ほめる。いいね、弥江ちゃん。私よりかしこいわって。そこはうれしいですよね。昨日は歩きながらありえないことの話をしていて、テレビとかで磁石みたいに身体に金属をくっつける人が出てますよね。これは科学的にはありえないので、信じてはいけません。そういう理論的な育て方にはすごく力を入れたいですね」
ママ「でも、子どものファンタジーはなくなるよね(笑)」
「なくなるけど、変なことを信じるのはいけません。娘は偉人の本を読むのが好きなんですけど、ある有名な人の本にはいいことばかり書いていたんですよ。でも、その人は良くないこともいっぱいしているし、批判もされていました。すべてを鵜呑みにするのではなく、自分で調べたり研究したりして、判断することが必要ですよね」
物事の本質を知るということですよね?
「そうですよね。本質を調べる、ネットに書いてあることを全部信用してはいけません。そのなかでも判断する力を身につけて、何が大切か、何が大切ではないという価値観を身につけてほしいです」
(2) グレブさんの父の教え!?
お子さんに接するうえで心がけていることは、自主性に任せるということですか?
ママ「娘が生まれた時に、夫は自分のお父さんに父親として何をしたらいいか、アドバイスを仰いだんですよ。そしたらお父さんは、とにかく子どもを腐らせないこと(笑)。ただ、甘やかすのはダメ、この子の持っているものすべてを腐らせてはいけない。そういう育て方をしなさいと言われていたのを覚えてて。それくらい一生懸命育てるというか。実際は私たちが育てられてる感じがあって、娘から教えられることの方が多いですね」
「コラボですよ。子育て親育て。ホントにそうですよね。最初はみんなゼロから子育てを習うでしょ。だからホント自由に。もちろんいいとこは似てほしいけど、悪いことは真似してほしくない」
ママ「娘から、大人は子どものお手本ですと言われて私もドキッとした(笑)」
子育てのポリシーは?
「人を大切にして。そこが一番ですよね。人を大切にしたらいい人は残る、悪い人は離れる。いい人からいっぱい勉強できると思います。2つ目のルールは、相手が悪いことしても、みんな完璧じゃない、誰もがみんな過ちを犯してしまう。相手がごめんねとあやまってきたら、許してあげてもう一回チャンスをあげる。シンプルなルールですよね。それは自分の生き方のポリシーでもあり、子育てもそれが大切です」
ママ「2年前、私が病気をして1カ月家を空けてたんですけど、その時も娘は崩れることがなかったんですよ。周囲の励ましに強がることなく私の病気をしっかり受け止め、こういうふうに闘ったらいいよと言ってくれたことで、私も助けられました」
「これからどういう社会になるかわからないですけど、育て方は難しいですよね。それはすごく悩みますけど、あと10年先じゃないと私の育て方が正しいかどうかもわからない。一生懸命これを勉強しなさいと言っても、その仕事がないかもしれない。ホント、水のような感じでどこにでも合わせられる。どんな社会でも、どこの国でも生きていける人になったら一番いいですよね。ちゃんと人間らしく、自分のポリシーがあるような。そのための基礎は先に作らなければならないので、上に建てる家をどうするかは本人が自由に決めていいですよね」
その基礎を担っているのは親御さんですよね。そのためにグレブさんが普段から言っていることは?
「礼儀、行儀。結局、何でもあいさつから始まるでしょ。大人になると、ごめんね、ありがとうが言えない人が増えてくるでしょ。私は偉そうな感じの人がすごく苦手。そこは大切なことですよね」
ママ「結局は人を大切にすることですよね」
「それもひとつ。あとは社会のなかで生きるために大切なのはコミュニケーション能力とかのソフトスキルです。たとえば子どもが3人いたら、2対1で遊ぶのではなく、もう一人も入れてください。そういうふうに子どもの時から社会勉強できていれば、あとは何でもできると思います。それが一番ですよね。別に女の子らしいことやってとは絶対言わないし、それはもう自由です。だけど、人を大切にする」
ママ「結局人を大切にしようとすると、自分勝手なことを言わなくなるような気がします」
「あと、学ぶことを嫌いになってほしくない。私は勉強が大好きで、妻から何か質問されても、調べ始めたら止まらないタイプなんですよ(笑)。勉強は将来的に道具として使えるものなので、テストのために勉強するというのは馬鹿らしいですよね。今という時間を無駄にしてほしくないし、ちゃんと自己管理してほしいですよね」
弥江ちゃんは習い事にも熱心なんですよね?
「いろんなことを習いたいと言うけど、そのなかで好きなことを見つけてください。親がこれをしてくださいじゃなくて、自分が決めてくださいという」
ママ「今は塾へ行くことよりも学校でしっかりと学んで、学校で教えてもらえない習い事は私たちも協力するようにしています。先週から学校で陸上とバレーボールを始めたんですけど、走ることが得意ではないんですよ。でも、娘いわく、陸上部に入ることで走ることが得意になったり好きになると思う。だからやりたいと」
「私の性格と同じ。だってできることよりもできないことをやった方がいいですよね。娘から言われた時はすごくうれしかったですよ」
(3) みんな子育てに悩んでいる
子育てについて、悩みましたか?
「ずーっと(笑)。さっきの話に戻るけど、最悪の事態ばかりを想定して、これは危ないとか考えるんですよ。だけど自分の子育てがいいか悪いかは、娘が大人になるまではわからないですね。ただ、自分がしたいこに情熱を持てる人になってほしい。今日も娘と妻にビデオを見せたんですけど、アメリカの8歳の女の子が足を失っているにもかかわらず、一生懸命鉄棒や機械体操に取り組んでいる。私は娘に話したんですよ。あなたは2つの腕と2つの足を持っている。目が見える、耳が聞こえる、恵まれた子ですよ。やりたいことを何でもできる。それに感謝しないと」
子育てに悩んでいるお父さんにアドバイスするなら?
「人間として、子どもを大切にしてください。一緒に過ごす時間はすごく短いです。その短い時間の間も一秒ずつ喜んで。たとえば、しゃべり出した、それだけでもいい。子育てを間違えたとしても、みんな大人になる。とにかく、子どもとの時間を大切にしてくださいということです。人間として子どもを尊敬して、言うことにもちゃんと耳を傾ける。私も娘がやっていることに対して叱ったり、言ったりする時があるんですよ。その時に自分も同じことをちゃんとできるかというと、できないこともある。だから、こうしたらいいじゃないかなと、言い方にもやさしさが出てくるんですよ」
ママ「私も感情的に言ってしまうことがあるんですけど、それはよく夫から言われます。自分も同じことしてない? 怒る前に一回考えろって(笑)」
「ああしてこうしてと言うのは簡単。言葉の問題ではなく、自分の生き方を見せることですね」
(4) 弥江ちゃんの一言
オードリー・ヘプバーンが大好きなんですよね。どういうところが好きですか?
「生き方とか。たとえば、リタイアしてからも慈善活動をやっていたところかな」
家ではパパのことをなんと呼んでいるんですか?
「Tatuś(タトゥーシュ)。ポーランド語でお父ちゃんという意味です」
家でのパパはどんな感じですか?
「えーっと、けっこうやさしい。話し好きでうるさいところもあるけど(笑)」
どういうところが好きですか?
「全体的に」
ありがとうございました。
週に1回のグレブさんとの時間は弥江ちゃんにとってかけがえのないもので、学校から帰宅するなりパパに飛びついていました。グレブさんも離れたくないのは同様で、宇和島に帰る時も奥様が「明日早いんだから遅くならないうちに帰ったら」といくら言っても、弥江ちゃんが眠るのを見届けてから帰路につくそうです。
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