Vol.4
里山と世界を行き交うなかから生まれるたしかなきぼう
市毛さん親子
今回訪れたのは内子町小田地区に暮らす市毛さん。
もともとは東京出身で、当時の会社退職後に夫婦での世界一周旅行を経て、2012年にたまたま訪れた松野町に惚れ込み移住。地域密着型デザイナーとしての仕事も間もなく軌道に乗り、2017年には現在の住まいでもある築約40年の民家を購入されました。松野町民であった頃から「旅するように暮らしたい」という名のもとにフリーマガジン『とんとん』の編集・制作を手がけ、最近ではクリエイター向けオンラインコミュニティを立ち上げるなど、活躍の場を広げておられます。
- パパPROFILE
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- 46歳、フリーランスデザイナー
- 一人息子・ひーくん(4歳)のパパ
- Facebookアカウント
https://www.facebook.com/yuichiro.ichige(外部リンク)
(1) ストレスフリーの田舎暮らし
里山暮らしの魅力は?
「僕も妻も都会に住みたいという気持ちがわりと薄かったので、里山の環境で暮らすことがすごく性に合っていて、住んでみたらすごく居心地がよかったんですよ。田舎暮らし自体も初めてで、地元のコミュニティに受け入れてもらえるかなというのがすごく心配だったんですけど、地元の方々からすごくよくしてもらえたので何の問題もなかったです。暮らしにしても愛媛は食材天国で、野菜もおいしいし果物もおいしいし、宇和海や瀬戸内の魚が食べ放題なんですよ。しかも全部原産地なんで、東京でそれらを見ていた立場からするともう破格値以上なので、もう言うことなしです」
自宅の裏に畑がありますよね。
「近所の方が一年中野菜を栽培してくれているおかげで、ひーくんは野菜が大好きなんですよ。ピーマンやニンジンなど、子どもが嫌がりそうな野菜でも喜んで食べますよ。畑のなかにある『ひーくんのうえん』では、ひーくんがブロッコリーを育てています」
育児に関してはどうですか?
「東京では子どもをつくろうという気分にはなかなかなれなかったんですね。隣と密着している住宅環境で家も小さくて、愛媛と違ってコミュニティのつながりがわりと希薄ですからね。子どもがわーっと泣いたり騒いだりした時に、子どもを気にかける以前に隣近所に迷惑かけちゃってる方に気持ちがいってしまう。松野町もそうでしたけど、子どもが騒いでても隣近所を気にしなくても済むんですよ。たまに近所の方にうるさくないですか? と訊いても、いやいや全然うるさくない。むしろ声が聞こえないと、今日は大人しいけどどうしたんだろう? 心配です、みたいなことを言っていただける環境なんですよ。子育てする側のストレスをものすごく減らしてくれてるんで。そこは本当にありがたいですね」
フリーランスは子育てにも好都合ですか?
「そう思います。田舎暮らしで、これだけ部屋が広いと子どもが騒いでてもあんまり気にならない、仕事部屋に上がってきてもひーくんはひーくんで気を遣ってくれるんですよ。今は幼稚園行ってるからお互いに困ることもなく、僕が家にいることで妻の負担がある程度軽減されてる部分はありますね」
子育ても積極的に参加されてるんですか?
「それはもう当たり前ですね(笑)。そりゃ仕事はあるでしょうけど、基本的に赤ちゃん時代はおむつ替えとお風呂入れる担当だったんですよ。だから妻しかできないことは妻に頼んで、僕でもできることは僕がやる。というふうに分担しても大変だったから、それを妻一人に押しつける方が異常だと思います」
(2) 10年前と今の子育ては大違い!?
子育てで参考にしているものは?
「いやぁ、あんまりなくて、妻と話すことですかね。お互いに多少は本読んだりネットで調べたりはしますけど、それぞれが調べた情報でお互い考え方が違うところはすりあわせるというレベルでしかないんですよ。英才教育をしようというスタンスでもないですからね」
自由に伸び伸びと、という感じですか?
「基本的にはそうですね。だからあんまり縛り付けようという感覚はないです。ただ、子育てしてて一番自分たちにとってもカルチャーショックだったのは、10年前に言われていた子育てと現代の子育てはコンセプトが全然違うんですよ。たとえば僕らが赤ちゃんの頃は新生児には日光浴させた方がいいと言われていたけれど、今はそんなことありえない、紫外線に当てるのはやめましょうというくらい、常識の違いがあるんですよ。育児を調べれば調べるほどそういうのがわかってきたから、今言われてることも10年後に変わってるかもしれないですね。別にこれは正しいことでもなんでもないので、最新情報から自分たちなりに咀嚼して、それでやれることをやるしかないよねという。僕らはお医者さんでもないし専門家でもないから、その場その場において自分たちの感覚でやっていくしかないことも多々ありますし、二人とも育児自体が初めてだからすごいストレスを感じることもたくさんありました。だけどそれをどこに吐き出すのかとか、そういうこともいろいろ試行錯誤しながらやってきました」
ママ「私たちがひーくんにしているいちばん特徴的なことは、海外旅行にいっぱい連れて行くことや、小さいうちから東京を体験させることなんですよ。田舎でずーっと過ごして東京を知らないまま育ったことで、スゴい東京をイメージして、絶対東京に行くぞ、東京に行けば全部が変わるみたいな頭になってしまう子にはさせたくないんですね。小さい頃から普通に海外にも行って、いろんな世界があるという、いろんな選択肢があるということを当たり前に感じるようになってほしいですね。小さい頃からそれを知ってると知らないとでは、生きていくなかで選択肢が違うと思うんですよ。たとえば、小中高でいじめに遭ったとしても、本人はその世界しかないと思い込んで逃げ場がなくなってしまう。別に学校でいじめに遭って嫌だったら行く必要もないし、そんなに世の中狭くないし、どこに行ってもいい。自分が自分らしく生きられる場所はいくらでもありますからね。そういうのを自分で、小さいうちから選択肢はたくさんあることをわかってもらうために、いろいろ経験させています」
「それも意識的にやっているわけではないんですよ。自分たちの楽しいことや居心地のいい世界を家族3人のなかで作っていく時に、ひーくんにこうしなきゃいけないよというのを押しつけるのはいやだなというのが基本的にありますからね」
ママ「自分たち夫婦も楽しいことをたくさんやって、それをひーくんも楽しければ一緒に出来るし、違うのであれば他のことをすればいい。去年も台湾とソウルに行ったんですけど、ひーくんに、今年一番楽しかったことは何?と聞いたら、台湾とソウルに行ったことです、と言っていました(笑)。あと、新幹線がすごい好きで台湾の新幹線に一駅だけ乗りに行こうとこっちははしゃいで行ったら、ひーくんはゼンゼンみたいでした(笑)。まぁ、とにかく全部やらせる。失敗もくそもないという感じですね」
「ひーくんが台湾に行って何が一番楽しかったと聞くと、スーパーにある100円で動くような小さなメリーゴーランドに乗ったことなんですよ。ああ、何でもいいんだなって思いました(笑)」
(3) 子どもがリラックスできる親子関係
子育ての失敗談とかあります?
ママ「赤ちゃんの時の話なんですけど自分の余裕がなかったために、ああしてあければよかった、こうしてあげればよかったという後悔はいろいろあります。具体的に言うと、赤ちゃんの生後を楽しめなかったんですよ。なんかこう、気負ってがんばりすぎたんですね」
「楽しかったんですけど、余裕のなさが上回っちゃってる状態ですね。妻は自分の気持ちの整理や自分がついていけない方に気を持って行かれた。日々の生活のなかで赤ちゃんの世話に9割くらい持っていかれましたからね」
市毛さんがお父さんから学んだものは?
「うちの親父は子どもとコミュニケーションとるのが上手じゃなくて、僕もどっちかと言うとお父さんが苦手で育った典型的なファザコンだったんですよ。逆に僕のスタンスとしては、そうじゃない親子関係をひーくんと作れたらいいなという意識を持っていて、お父さんと対峙しても緊張しないようにするというのが最低限のコンセプトですね。そこはクリアした状況でここまで来られてるとは思います」
でも、怒んなくちゃいけない時もありますよね。
「もちろん怒りますよ。だけど、僕が怒ると怖すぎるみたいなんですよ。ひーくん的にお母さんから怒られてもあんまり気にならないんですけど、僕が怒ると心に傷ができるくらい恐かったり本気で泣くことが何回かあったので、それはやめようという話をしたんですね」
ママ「怒るのは私がやるから、怒らないでと言ってます(笑)」
子どもさんとのコミュニケーション術は?
「こうしなきゃいけない、ああしなきゃいけないと思い始めるとそれがストレスになってくるので、逆にあまり考えないようにしてます」
それは子育てに悩む、世のお父さんたちも参考になりますね。
「それは人によると思うんですよね。僕の場合は父親との関係性が影響しているから、一概に僕のやり方がいいとは思わないんですよ。ただ、自分の子ども時代の経験からすると、お母さんと一緒にいる時間が多くて、お父さんと一緒にいる時間が少なければ少ないほど、お父さんと対峙する時に緊張するという感情が生まれやすいと思う。そこを緩和してあげるという意味では、なるべく一緒に過ごす時間を増やしてあげる。ようするにお父さんと一緒にいると安心する、リラックスできるという関係性を保っててあげた方が、お互い楽だろうなという。ただ、子育てそのものはあんまり考えすぎると疲れやすいことだと思うんですね。だからこういうふうにしなきゃいけなんだと考えれば考えるほど、子どもにとってもよくないし、親も疲れるだけだから、そこは夫婦で話し合うことも必要です。ご夫婦ごとに子育てのコンセプトは変わると思うんですけど、子どもごとに性格も違うし好きなものも違うだろうし、日々成長していくわけだから去年はこうだったのに? ということが毎年起こるわけじゃないですか。それに融通を利かせて対応していける柔軟さはきっと必要です」
(4) ひーくんの一言
ひーくんはお父さんのどういうところが好きですか?
「全部です」
ひーくんが今一番好きなことは?
「プラレールで遊ぶことです」
ひーくんが大きくなったら何になりたい。
「絵を描くのが好きです。あと、毎日、図工をやっています。最近では秘密基地を作りました」
ありがとうございました。
デザインやブログのアクティブなイメージとは逆に、実際の市毛さんは淡々とした口調でお話しになる芸術家肌のパパでした。お子さんが生まれたからといってがむしゃらに働くでもなく「あまりあせってなくて、お金稼がなきゃっていう感覚がわりと薄いんですよ」と、マイペースを貫いておられます。でも、ひーくん誕生の際の「何が起こってもひーくんは自分の子どもというふうに思える、かけがえのない存在が登場するってこういうことなんだなと実感しました」という感動はいまだ冷めやらず。間もなく次号の制作に着手する『とんとん』を発行するきっかけも「妻と子どもと一緒にできることないかな」というものでした。そして、過去の誌面で取り上げた『そうめん流し』について「愛媛の人にとっては刺激的じゃないかもしれないけど、県外の人にとっては刺激的な素材ですね」と言うように、移住者目線と父親目線が、市毛家の旅=暮らしをより豊かなものにしているような印象を受けました。
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